ダ・ヴィンチ - ワラウ

一緒に夢を叶えよう。左手に宿った天才ピアニストと不良少年の青春ストーリー

2020年6月30日

  • 『左手のための二重奏』(松岡健太/講談社)

     音楽の奥深さにスポットを当てた漫画は時代やトレンドに関係なく、話題になりやすい。だが、『左手のための二重奏』(松岡健太/講談社)は、数ある音楽漫画の中でも異彩を放っている。予想を裏切る衝撃的な展開が次々と繰り広げられ、ページをめくる手が止まらなくなってしまうのだ。


     恋愛漫画にある甘酸っぱさやスポ根漫画のような熱量、そして思春期ならではの繊細さのすべてが一度に楽しめる本作は、もはやただの音楽漫画ではない。


     不良少年のシュウは人生に希望を見出せず、暴力に明け暮れる日々を送っていた。そんな時に出会ったのが、同じ学校に通う少女・弓月灯。灯は多くのピアノコンクールで優勝を総なめにしている、天才ピアニストだ。ひょんなことから灯と会話を交わすことになったシュウは彼女の価値観を聞き、心打たれる。好きなものを堂々と誇り、夢を語れる姿はシュウの目にまぶしく映った。


     自分にも、そんな風に誇れる“好きなもの”があったら…。そう口にしたシュウに対し、灯は自分の演奏を好きになってもらって、ピアノ友達になりたいと言う。周囲から疎まれてきた自分に優しさを向け、空虚な心に寄り添おうとしてくれる灯。その存在はシュウにとって希望になる…はずだった。


     不運なことに、灯はシュウ2人が帰宅する途中で事故に巻き込まれ、死亡。衝撃的な展開に読者の心は凍り付く。一方、左手を轢かれたシュウは左手が動かなくなってしまったが、一命をとりとめた。


     しかし、夢を抱いていた灯が死に、希望を持たない自分のほうが生き残ってしまったという事実に悩み、良心の呵責に耐えられなくなったシュウは自殺を試みてしまう。だが、その瞬間、不思議なことが起こる。それまで感覚がなかった左手が勝手に動き、シュウの命を救った。なんと、シュウの左手には灯が宿っていたのだ。


     生きてほしい。そんな灯の想いを聞いたシュウは生きながらできる贖罪を考え始めた。頭に浮かんだのが、死ぬ間際に灯が言っていた「世界中を笑顔にする」という夢。…一緒にピアノを弾くことで、その夢を叶えよう。そう灯と約束を交わしたシュウはピアニストになる道を選び、特訓を開始する。

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