ダ・ヴィンチ - ワラウ

廃墟になったラブホテルでヌード撮影!? 持て余す想いを受け止めるラブホテルを舞台に描かれる人々の性と生

2020年10月14日

  • ホテルローヤル
    『ホテルローヤル』(桜木紫乃/集英社文庫)

     大人になって、驚いたことがいくつかある。子どものころ憧れた自由は、輝かしいだけのものではなかった。恋愛だって、楽しいばかりとは限らない。自由に伴う寄る辺なさと、恋の悲しみ、愛の煩わしさを抱え、見渡す限りの道なき未来を前にして、呆然と立ち尽くしてしまう──それは、『ホテルローヤル』(桜木紫乃/集英社文庫)に登場する人物たちも、同じではないだろうか。


     八月の湿原は、緑色の絨毯に蛇が這っているようだ。
     川が黒々とした身をうねらせていた。隙間なく生い茂った葦の穂先は太陽の光を受けて光っている。(中略)視界百八十度、すべて湿原だった。この景色のいたるところに、うっかり足を滑らせたら最後、命までのみ込まれる穴がある。


     物語の舞台となるラブホテル「ホテルローヤル」は、眼下にそんな景色が広がる高台に建っている。オレンジ色の屋根が安っぽい建物は、営業をやめてから何年経つのかわからない。4月のある日、廃墟となったホテルローヤルに車で乗りつけたのは、短大を卒業してから13年間、スーパーの事務員として働いている加賀屋美幸と、その恋人である貴史だ。

    続きを読む