ダ・ヴィンチ - ワラウ

『猫がこなくなった』――自由な言葉の運動に引き込まれて“世界”が広がる。刺激的でたまらなく面白い、保坂和志最新作!

2021年1月14日

  • 猫がこなくなった
    『猫がこなくなった』(保坂和志/文藝春秋)

     小説家にはそれぞれ独自の文体や作風があるものだけれど、個人的に保坂和志ほど読んでいる最中に「いま自分は保坂和志の文章を読んでいるなぁ」と、書き手の存在を意識させられる小説家はいない。それは保坂和志の小説が、“ストーリー”の動きではなく、保坂和志本人の“思考”や“記憶”の流れを文章にして、その文章の動きによって、簡単に言葉にできない何かを描こうとしているように読めるからだ。こう書いてしまうと「それは小説ではなく、エッセイではないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、保坂和志の作品について、その区別はとくに重要ではないと思う。フィクショナルな登場人物やストーリーの起伏ではなく、言葉の運動そのものに引き込まれてしまう感覚こそが、保坂和志作品の大きな魅力だからだ。


     最新刊『猫がこなくなった』(文藝春秋)も、そうした保坂和志を読む面白さを堪能できる短編集だ。収録されているのは次の9編。

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