ダ・ヴィンチ - ワラウ

推しがファンを殴って炎上!? 『推し、燃ゆ』の主人公に見る、切実な自尊心の保ち方【芥川賞ノミネート作】

2021年1月11日

  • 推し、燃ゆ
    『推し、燃ゆ』(宇佐見りん/河出書房新社)

     最年少での三島由紀夫賞を受賞した宇佐見りんさんの2作目にして、芥川賞にノミネートされた『推し、燃ゆ』(河出書房新社)はタイトルどおり、推しが燃える、すなわちSNSで炎上する話である。主人公のあかりは高校生。就職活動をしているのか、と問われるシーンがあるからたぶ3年生。勉強やアルバイトだけでなく、生きる上で必要なあらゆることが「普通に」「ちゃんと」できなくて、唯一頑張ることができるのが、「まざま座」というアイドルグループのメンバー・上野真幸を推すこと。推す、という言葉が普及したのはつい最近のことだと思うけれど、ハマるとか追いかけるとかファンとか、そんな言葉では代替できない強さと熱がそこにはあるのだと、本書を読んでいるとよくわかる。


     推し方は、人によってもちろん異なる。あかりのスタンスは〈作品も人もまるごと解釈し続けることだった。推しの見る世界を見たかった〉。それは恋愛とはちがう。あかりの友人・成美は有名なアイドルグループから地下アイドルに推し変し「触れ合えない地上より触れ合える地下」で推しとも「繋がる」ことに成功するが、あかりは〈触れ合いたいとは思わなかった。現場も行くけどどちらかと言えば有象無象のファンでありたい。拍手の一部になり歓声の一部になり、匿名の書き込みでありがとうって言いたい〉。推しへの想いは激しい恋慕に似ているけれど、決して恋ではないのである。

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