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全米図書賞受賞、柳美里の『JR上野駅公園口』――居場所のないすべての人たちへ贈る、ある男の魂の物語

2021年1月11日

  • JR上野駅公園口
    『JR上野駅公園口』(柳美里/河出書房新社)

     ちょっとした運命のいたずらが、人から帰る場所を失わせるのかもしれない。ただ真面目に生きてきただけなのに、いつの間にか居場所を失ってしまったという人は、きっと少なくはないだろう。


     芥川賞作家・柳美里氏の『JR上野駅公園口』(河出書房新社)は、福島県相馬生まれのとあるホームレスの男を描いた物語。累計発行部数30万部突破。英訳版『Tokyo Ueno Station』(モーガン・ジャイルズ:訳)が、アメリカで最も権威のある文学賞である全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞し、全世界から注目を集めている話題の作品だ。家族のために身を粉にして働き続けてきた男は、どうして上野恩賜公園のホームレスとなったのか。悲しみに満ちた人生はあまりにも衝撃的。見過ごされたに違いない男の人生をこの物語は、ただ淡々とつむぎ出していく。


     主人公の男は、現・上皇と同じ年の生まれ。大正天皇の皇后・貞明皇后と同じ名の妻を持ち、今上天皇と同じ日に生まれた息子の名には、浩宮の「浩」の字を入れた。天皇家と何かと縁がある男だが、その人生は対照的。この男の人生は、あまりにも虚しく、切ないのだ。家族を養うために、出稼ぎにきた上野。1964年、東京オリンピックのための競技場の建設現場で働き続けた日々。だが、家族のために懸命に働いてきたというのに、息子はわずか21歳の若さでこの世を去る。そして、悲しい運命が立て続けに、男に襲いかかるのだ。

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